ナショナルフィルムセンターで「元禄美少年記」(伊藤大輔監督)、現世では結ばれない女の出る場面は夢と現実の境目が見えない幽玄の世界のようで、その他の場面では非情に身分の差が描かれる。身分差の問題は終盤に消えたようなのは残念だった。
中村賀津夫と仲間が追われて逃げる江戸は迷宮のようで、追いつめられて転げ落ちた先が女郎部屋というのがいい。討ち入りの場面、外に立たされている中村賀津夫に聞こえてくる鼓の音は、ほとんど幻想としか思われず、その、鼓の音で吉良上野介の隠れ場所に導いたしのが斬られ、対峙する二人の間に、倒れたしのの鼓が転がってくる所で涙が出る。情念が鼓を転がしたかのような。最後、前の場面でどう見ても死んだとしか思われないしのがやって来るのも、迎えに来たようで、胸に迫った。
例えば「雨月物語」であれば、夢と現実、幽霊と生者の境目はひとまずはっきりしているのが、この映画では現実として描かれていることが、夢のように見えてきて判然としなくなる。それがいい。
音に導かれる二人、というのは「切られ与三郎」でもあり、やはり素晴らしかった。