エロス+虐殺(吉田喜重)をポレポレ座で観た。
ロングバージョンはDVD上映なので短い方で。ニュープリント。
どうも乗れない所が多かった。形式と内容が乖離している気がした。ストーリー自体が深いアイロニーや分裂、不条理を含んでいる「戒厳令」や「煉獄エロイカ」であれば、形式と内容のせめぎあいや相乗効果が面白く感じられるのだが、これはただの痴話喧嘩ををひねくりまわしているように見えてしまった。笑いがないのもつらくて、叫んで走り回る原田大二郎があまり笑えず、痛いばかりだった。細部の面白さ、美しさは素晴らしい。岡田茉莉子が動かす傘の反転で、カットが5回くらい切り替わる所などは市川雷蔵の時代劇の殺陣のようだったが、様式美の退屈さと紙一重でもある。
大杉栄の破滅願望、自己矛盾、自ら崩壊していくのは、これまで観た映画と同じで面白いが、その矛盾の元がただの痴話喧嘩なので、その馬鹿馬鹿しさをアイロニー、苦い笑いとして見せられればよかったような気がする。全然違うけど「柔らかい肌」のことを考えた。三角関係で滅びる男の映画は、笑いと共に観たい。リアルな馬鹿馬鹿しさ、笑いが悲哀に転換する形が必要で、この映画のようなスタイルとは馴染まないと思う。どうしたって「たかが三角関係」という感覚から離れて観ることはできないから。
伊藤野枝のほうが重要なのかもしれないが、野枝が大杉に対して持つエロティシズムやエモーションの部分があまり見えてこない。ただの諦めの悪い女に見えてしまうし、かといって、そういう女の情念の恐ろしさも感じなかった。
音楽が素晴らしく、サントラが欲しい。あのかっこいいロックはエイプリル・フールの演奏ということ。サントラはないようで残念。

文學界の映画特集は魅力なくて立ち読みだけ。買うには薄い特集内容。