台風太陽

チョン・ジェウン監督
子猫をお願い」監督の新作。
全編どこを切り取ってもアメリカのスポーツブランドのコマーシャルになるような、目まぐるしいカットの連続は躍動感を伝えて、ナイキのCM作れるくらいのセンスがあるのだなあ、と思うが、見ていて疲れるし、役者と実際にスケートするスタントマンの入れ替わりをごまかす手管のように見えてしまい、そればかりが気になった。
映画そのものに入り込めず、役者とスタントの入れ替わりばかりチェックしてしまったのは、役者に問題があるからだと思う。皆、つるんとしたきれいな肌で、ストリートの勇者たちには全く見えない。いくら腕を骨折し、歴戦の傷跡を見せたとしても、顔があれでは。映像自体も、リアルなストリートの感覚より、つるつるした偽物の風景の感覚がしてしまう。ストリートがテーマの一つであるならば、ザラザラした本物の街の肌触りと役者の風体に本物のふてぶてしさが欲しい。
撮影と編集によってスポーツとしてのスケートは、映像としての面白さにある程度まで、置き換えられてはいると思うのだが、どうもつるつるした映像が好きになれない。エンドロールで出てくる本物のスケートの、荒れた手持ちの映像を見ると、ああこの映画は偽物だったんだな、と思ってしまう。それはつるつるの映像と、役者のせいだと思う。
ストーリー上に不愉快な部分はない。友情・愛情・集団・連帯こそが困難を乗り越えるとか、勝者になることが美しく、正しい、というテーマに映画内でアンチが表明されている。このあたりは「子猫をお願い」に通じる気骨を感じる。人が基本的に一人であり、大事なのは自分が自分自身の目標や喜びをもつことだ、というテーマは気持ちいいのだけど、役者の顔と肌そのものに鳥肌が立ってしまう。周りの観客の多くが、若い韓流スタアの青田買いに来たおばさんたちで、映画を見ながらチェックし合っているのが聞こえてくるのも、鳥肌に拍車をかけたのかもしれない。
それにしても、主人公があこがれる英雄が地に落ちていく成り行きが甘いし、それを乗り越える主人公との関係がゆるいし、主人公は終始呆けたかおしかしていないので、ドラマとしての強さが感じられない。
ワイヤーを使ったスケートCMの撮影シーンを作り、主人公がそれに逆らう、というところで、この映画のスケートのリアリティを正当化しているように見えるが、主人公たちもこの映画の中で少ししか滑ってないじゃん、という気持ちになってしまうのは映画に乗れなかったからだろう。
世界中の誰が見てもわかる(と思う)ストーリーとコマーシャルのような映像は、現在のスポーツ青春映画はこれだ、世界中の人に見せるぞ、という姿勢、心意気を感じ、立派だなと思いながら、最後まで役者のツルツルした肌に、鳥肌が収まらなかったし、映像の軽薄さまで今時のある種のハリウッドのテイストにしなくていいと思う。
子猫をお願い」で、女性に対して見られた観察眼、辛らつさと優しさのバランスは見られず、若い男(ハンサム)って馬鹿でいいなー、という監督の羨望ばかりが、主人公のアップに投影されていた気がする。