次郎長三国志(東宝)メモ

備忘。印象的だった場面。
第一部 
喧嘩した長五郎が海から出てくる場面。桶屋の鬼吉が桶に入って桶屋と話す所。桶を背負って走る鬼吉。拳銃を撃つ綱五郎。次郎長らが朝焼けのなか、走って来る。鬼吉と綱五郎が階段転げ落ちる所。大政が、妻が去っていくことに気づくアップとその後の俯瞰。捨てられた大政の長槍。喧嘩が始まる河原で笛を吹く法印。喧嘩の河原の月光と朝焼け。いつの間にか仲間に入っている法因。喧嘩の発端の男をかつぐ次郎長一家。斬殺される場面は明るくスルー。殺陣や残酷なシーンがはしょられるのは規制のためか。
第二部 
次郎長の婚儀の暗いムード。茶摘み娘たちと次郎長一家が街道で歌うモンタージュ。清五郎の敵討ちを止める河原のシーンのつながり。清五郎と許嫁の別れの場面。喧嘩の河原で石松が初登場する場面。石松の歌。
第三部 
石松が三五郎に助っ人し、落とした財布を三五郎が拾い、確認するくだり。お仲と三五郎の目配せ。お仲のつぼふりと石松がすってんてんになるモンタージュ。お仲の袖から出た腕の美しさ。斜めに切り取られた画面。石松が温泉に飛び込み、泳ぐ所。お仲の入浴シーンと水面に映る月。眼で口説けといわれて眼をきょろきょろさせる表情。石松が、お仲の門付している店で飲み、歌う場面。特に二人のデュエットになる所。次郎長一家の百たたき。
第四部 
引越しもおみこしになっている冒頭。三五郎がお千をてなづける場面。寝転がってちらりとおせんを見るカット。虎と豚松の砂浜での博打。豚松の相撲の場面。立ち合い前、両手を土俵にめり込ませる、牛のような豚松のおかしさ。三五郎が敵討ちに会い、石松が助ける。三五郎が暢気に「殺すなよー」と言いながら金を数えている。その後の、二人がお互いを探して迷う場面。豚松が次郎長の家で暴れ、さあ殺せと寝転ぶ場面。石松と三五郎が神社で斬り合う場面。最後の殺陣で、初めて長いチャンバラ。特にお仲の太刀さばきの美しさ。その後の夜の役人たちの松明の明かりと煙。
第五部 
沈鬱な展開へと変化する転機となる長いお祭りの場面。その後を暗示するような、次郎長とお蝶のなれそめが語られるシーンの、息の長さ。子分らがいる前で、次郎長がお蝶を押し倒すカットの色っぽさ。大熊がやってくるのを見て、その後を予知するような、子分たちの暗い様子。甲州に乗り込んだお仲の素性がばれ、ドスを抜く場面の美しさ。悲壮なはずなのに明るい、甲州に乗り込む道中。甲州のやくざたちが森の中、次郎長たちを囲む場面。長い殺陣。豚松の斬られぶり。石松が眼を斬られるカットの壮絶なイメージ。
第六部 最初にやっかいになる家で、明け方、次郎長が人殺しの夢を見る。お蝶が廊下に立ち、自分らが迷惑がられている声が聞こえ、部屋に戻ると、次郎長がうなされている、そのつながり。久六の家で、逃げるに際して握り飯を作らせる場面のおかしさ。越路吹雪が初めて出る場面の一人芝居の所作。長槍を手に取るカットに驚く。
第七部 
冒頭から仏壇。お仲と喜代蔵の擬似母子の愁嘆場の妖しさ。喜代蔵を縛り直す綱をもつお仲の色っぽさ。喜代蔵を後ろから抱きしめる次郎長の妖しさ。復讐のため、久六らをおびき寄せる長いシーンの薄暗いトーンと陰謀の不穏なムード。ことが起こる前の不穏さをスケッチするかのような。何度も映されるお蝶の仏壇。子分らと離れ、仏壇のそばから動かない次郎長。笑顔の仮面で調子のよさを演じる子分たち。最後の復讐シーンの、部屋の隅に固まり、薄ら笑っている次郎長一家は異様だった。最後、久六が魚のようにおろされることを暗示する大きなまな板を、わっしょいわっしょいおみこしで明るく運ぶのに唖然。
第八部
本当に傑作。この一作で成立しており、話としてもすばらしく、何度でも見たい。小政ののろけ話を聞き、刀を抜く場面の同性愛感。夕顔と風呂に入るところの色っぽさとおかしさ。男に惚れたことがない、というせりふ。蚊帳の中で寝ている石松。志村喬に斬られそうになるくだり。お祭り以降、最後のカットまでの15分くらいはすごすぎる。雨宿り、森でのお面男らの闇討ち、割れたお面、身請けされて馬に乗る夕顔、砂浜を走る次郎長一家(次郎長はいない)。
第九部
異様な巨大な仏壇のタイトルバック。荒神山に山狩りが入り、次郎長一家の姿はなく、農民に語りかける声だけが聞こえる。農民らの子ずるさ、一貫性のなさ。次郎長一家が農民に許しを請うシーン。役人はたたきのめしつつ、許しを請うているのに円陣を組んでわっしょいわっしょい回り出す。次郎長と子分たちが出会う場面。木にもたれ、くねくね困っている次郎長。直接的な言葉をかけない。