2006-03-15

白い指の戯れ/村川透
処女の伊佐山ひろ子が男と知り合い、「感度良好な女に違いない」と言われる。その言葉が予言のように働き、うぶな女だったのが、別の世界=犯罪と色欲のモラルを超えた世界に下降し、地獄巡りする。新宿紀伊国屋の階段が地獄行きの道となり、二人ともそのことには気づいていないらしいが、その予感だけは感じているように、仕草はぎこちない。その、予言した男は、イニシエーションを施し消えた後二度と画面に映らないが、その存在、影が感じられ続けるのは、以降彼女が関係する人物たちがみな最初の男の関係者だからだろう。彼女の情夫になるスリは、最初の男の分身で、最初の男が彼女を別世界へ引き入れる役割を果たし、分身が、その続きの役割を引き継いでいる。刑務所に入ることで彼女のイニシエーションは終わり、晴れて共同体の一員になれるらしい。
神代辰巳が共同脚本に入っているが、神代作品のような面白さは残念ながらなかった。事故車がレッカーされる映像が何度か映されるが、ワンカットで演技の後タイミングよく映ったりするから、苦労したのじゃないかと想像するが、その割に効果は薄かった気がする。全体的に寓意や意図がわかりすぎるのが、痩せた印象、ものすごく面白いとは感じられないことにつながっている気がする。そのあたりは、監督の処女作らしいので、演出の技量の問題ということになるのだろうか。
スリのシーンは荒れた画面とカット割りがスリリングでよかった。特にバス内、スリの連係プレイの段取りが生々しく映されている。それから繰り返し映される、走る電車。

中井英夫「人形たちの夜」、面白かった。

朝の通勤電車で前に立っていた OL が、「勤続3年目からのサラリーマンの心得」みたいな本を開いて、「やりがいのある歯車になろう!」の項を熱心に読んでいた。