噂の女(溝口健二)の母娘が、いくらでも通俗的になるような葛藤において、含羞と倫理観と思いやりがあって乗り越えていって、通俗がまったく問題にならず、どんなに安っぽい男にだまされるとしても、母娘のたたずまいが傷つけられることはない。

不安(オリヴェイラ)の2話目の優雅さと、同時にゆるやかな悲しみ、生者/女への哀悼が映画全体を覆っていることを考えていて、吉田健一のことが思い浮かぶ。ゆるやかに死に向かっている人間の、喜びと苦痛の両方が存在する現世における、時間が経過していく感覚が、共通している気がする。物憂い快楽と憂愁の感覚。

家で浪人街(1957、マキノ雅弘)を見た。カットの連なりと画面の美しさは素晴らしいが、浪人たちのおかれた状況とそこにおける意気地のありよう、行動に移る時の葛藤があまり問題にならなかったのは残念。人が歩く時のパンや移動撮影、ここぞというときに人物を正面から撮影する時折のアップが美しい。浪人たちが集まる居酒屋は魅力的だった。河津清三郎の憎めないおおらかさ。