渋谷シネマヴェーラで「炎のごとく」と「明治侠客伝 三代目襲名」(加藤泰)を見る。
炎のごとくは、第一部がとくに面白かった。加藤泰の女性崇拝というかマザコンというか、母性を求めてやまない心が爆発していた。冒頭の5分くらいの飛ばしまくった編集からもうエモーションが溢れてそのままとどまることを知らないまま一部が終わる。倍賞美津子菅原文太を引きずり、温泉に入る二人、二人の足が水中に入っていくカットの艶かしさ。川辺での袖を縫うやり取り。倍賞美津子が盲目だが、目はいつも明いていて、どこかをいつも見つめている、そのまなざしが母性の強さ、意志を示し続けていて、美しい。
トークショーで、倍賞美津子さんが、最後のカットで監督から、菩薩のように立っていてくれ、と言われた、とおっしゃっていて、納得する。
この映画をマザコン映画というのは簡単だけど、それで何が悪いかと思う。常識や、大人としての分別を超えた所に何かを求め続けるエモーションがあって、それが映画に溢れていれば、心動かされる。善悪や常識や分別の彼岸に感情が、映画がある。
三代目襲名は本当にすごくて、ビデオで見た時とまるで違う。ビデオで見ると、やはりクールになって、分析しながら見てしまい、因果関係の、ドラマの運びのうまさに感心したのだが、映画だと、そんなことはできないほど画面からエモーションが溢れていて、アップのカット一つ一つに涙が出そうになる。冒頭の、セットが非日常感を作る祭りでの暗殺場面から引き込まれる。桃を出す場面が特に印象的な藤純子の可憐さと、最期のかっこいい藤山寛美の生き生きした魅力と、鶴田浩二のラスト10分のとんでもないアクションと、最後に見つめ合う二人のカットに、なすすべない。
どちらの映画も、明らかなセットの映像を入れていくのが面白い。背景がブルーや真っ白だったりして、この上なく人工的なのだが、その、人工的な映像が映画を別の次元に持っていくように見える。また、アフレコとシンクロの音声を混ぜて使っているらしいのも、生々しさを生み出している。藤山寛美の最期の場面で、突然音がシンクロになる場面など、それがすごく効果的になっているように思う。