泉鏡花「幻往来」を読んでいると、仕事先のすぐそばの辺りが出てくる。寺は今もあるし、坂の名前も同じで、警察署も同じ場所にある。「豊国の前を通って」とあってなにかと思ったら昔流行った牛鍋屋らしい。今は自動車がひっきりなしに通る坂道を、「幻往来」では駕籠が走る。その駕籠に乗っていた蒼ざめた女に、行き違いざまに一目惚れした医学生が、坂の下の御徒町の屋敷で、死にかけのその女にまじないをかける。怪しまれ、逃げ出す。その後吉原で、そっくりな遊女に出会う。